北海道の名峰として知られる羊蹄山。その麓で明らかになった大規模な違法森林伐採の問題について、関心を寄せていらっしゃるのではないでしょうか。
この事件は、広大な面積にわたる無許可開発が行われただけでなく、関与したとされる中国人建築主と行政が直接連絡を取れない状況が続くなど、多くの複雑な課題を浮き彫りにしています。美しい自然環境がなぜ危険に晒されたのか、そして今どうなっているのか、その詳細を知りたい方も多いはずです。
そこでこの記事では、羊蹄山の違法森林伐採問題について、事件の経緯から行政の対応、そして現在の最新動向に至るまで、全体像を分かりやすく、そして詳しく解説していきます。
- 事件の発生から発覚までの詳しい経緯
- 複数の法律に違反した無許可開発の実態
- 行政の対応と残された課題
- 事件の最新の動向と今後の見通し
羊蹄山で起きた違法森林伐採事件の全容
・発覚した伐採地の場所と被害規模
・当初報告の4倍に及ぶ伐採面積
・複数の法律に違反した開発の手口
・届け出なしで進められた無許可開発
・連絡が取れない中国人建築主の問題
・施工を担当した札幌の建設会社
発覚した伐採地の場所と被害規模
今回の違法森林伐採が発覚したのは、北海道虻田郡倶知安町巽(くっちゃんちょう たつみ)地区です。ここは、日本百名山の一つであり、「蝦夷富士」の愛称で親しまれる羊蹄山の麓に広がる、豊かな自然と美しい景観が特徴のエリアになります。
伐採された森林の面積は、約3.9ヘクタールに及びます。この広さは、東京ドームのグラウンド面積(約1.3ヘクタール)のおよそ3つ分に相当し、個人による開発としては極めて大規模なものです。
当初、行政が把握していた規模を大幅に超える被害が明らかになり、問題の深刻さが一層浮き彫りになりました。美しい景観が守られるべき羊蹄山の麓で、これほど広大な森林が無許可で失われたという事実は、地域社会だけでなく、北海道全体の自然環境に関心を持つ人々にも大きな衝撃を与えています。
当初報告の4倍に及ぶ伐採面積
この問題がさらに深刻視される理由の一つに、被害規模の報告が二転三転した点が挙げられます。当初、北海道庁が把握していた伐採面積は1ヘクタールを超える程度でした。しかし、2025年6月に行われた現地立ち入り調査の結果、実際の伐採面積が約3.9ヘクタールであることが判明します。
つまり、最初の報告の約4倍もの広さの森林が、誰にも知られずに伐採されていたということです。長期間にわたり違法な開発が継続していたことを示唆しており、行政の監視体制が及んでいなかった実態が明らかになりました。
このような大規模な無許可伐採がなぜ防げなかったのか、そして正確な被害規模の把握がなぜ遅れたのかという点は、今後の再発防止策を考える上で極めて重要な論点と考えられます。
複数の法律に違反した開発の手口
この開発行為は、単一の法律に違反しているだけではありません。複数の法律を無視した、極めて悪質な手口で行われていたことが分かっています。主な違反内容は以下の通りです。
法律名 | 違反内容 |
---|---|
森林法 | 1ヘクタールを超える森林開発で義務付けられている、都道府県知事からの「林地開発許可」を一切取得していませんでした。 |
建築基準法 | 住宅を建築する際に必要な「建築確認申請」を事前に提出せず、無許可で工事に着手していました。 |
都市計画法 | 開発行為に必要な手続きを怠っていた可能性が指摘されています。 |
景観法 | 倶知安町の景観条例に基づく届け出も行われていなかった疑いがあります。 |
このように、事業者は森林の伐採から建物の建築に至るまで、本来踏むべき法的な手続きをことごとく無視していました。これは単純な手続きの失念とは考えにくく、意図的に法律を軽視して開発を進めようとした悪質性がある、と行政は見ています。これらの多重違反が、問題をより一層複雑で深刻なものにしています。
届け出なしで進められた無許可開発
前述の通り、この事件の中心にあるのは、あらゆる手続きを無視した無許可開発です。森林を伐採する際には、規模の大小にかかわらず、事前に市町村へ「伐採及び伐採後の造林の届出書」を提出する義務があります。しかし、事業者はこの最も基本的な届け出さえ行っていませんでした。
北海道庁は、林地開発許可申請に必要な図面の提出を2024年11月から7回にわたって要求しましたが、これも全て無視されています。許可を得るための協議や調整を全く行う意思がなかったことがうかがえます。
許可や届け出は、無秩序な開発を防ぎ、地域の自然環境や景観、さらには防災機能を守るために不可欠な制度です。これらの制度を全く無視して開発を進める行為は、地域社会のルールを根底から揺るがすものであり、断じて許されるものではありません。
連絡が取れない中国人建築主の問題
この無許可開発を進めている建築主は、中国系人物とみられています。しかし、最も大きな問題の一つは、北海道庁や倶知安町といった行政機関が、この建築主本人と一度も直接接触できていない点です。
行政指導や勧告は、主に現場で施工を担当している札幌の建設会社を通じて行われています。建築主本人の意向や事情を直接確認できないため、なぜこれほど大規模な違法行為に及んだのか、その動機や背景は依然として不明なままです。
責任の所在を明確にし、法的な措置を確実に実行するためには、建築主本人との接触が不可欠です。しかし、現状ではそれができておらず、問題解決に向けた大きな障害となっています。この状況が、事件の全容解明と根本的な解決をより困難にしているのです。
施工を担当した札幌の建設会社
実際に現地で森林の伐採や住宅の建設工事を行っているのは、札幌市に拠点を置く建設会社です。この会社は、建築主から依頼を受けて施工を担当している立場にあります。
行政からの指導や勧告、そして後述する復旧計画書の提出などは、この建設会社が窓口となって対応しています。ただ、建設会社はあくまで「施工者」であり、開発計画全体を決定する「建築主」ではありません。
もちろん、違法な工事であることを認識しながら施工を続けたのであれば、施工業者としての責任も問われる可能性があります。しかし、全ての責任を施工会社だけに負わせることは難しく、やはり開発の主体である建築主本人の責任を追及することが、問題の根本解決には必要不可欠です。
羊蹄山違法森林伐採への行政対応と今後の課題
・道が7回無視された図面提出要求
・2024年6月の現地立ち入り調査
・事業者への工事中止勧告と復旧指示
・提出された復旧計画書とその内容
・鈴木知事が語る事件の悪質性
道が7回無視された図面提出要求
行政側も、手をこまねいて見ていただけではありませんでした。北海道庁は、開発行為が1ヘクタールを超える可能性があると認識した時点から、事業者に対して森林法に基づく林地開発許可申請に必要な図面の提出を求めています。
具体的には、2024年11月から2025年1月までの約3ヶ月間で、合計7回にもわたって提出を要求しました。しかし、事業者はこれらの要求を全て無視し、図面を提出することはありませんでした。
この事実は、事業者が当初から行政の指導に従う意思がなく、意図的に違法な状態を継続しようとしていたことを強く示唆しています。度重なる要請を無視し続けた行為は、極めて悪質であると言わざるを得ません。
2025年6月の現地立ち入り調査
再三の図面提出要求が無視されたことを受け、北海道庁はより強制力のある対応に踏み切ります。2025年6月4日、森林法に基づき、職員が現地へ立ち入り調査を実施しました。
この調査によって、初めて伐採地の正確な面積が約3.9ヘクタールであることが公式に確認されました。当初の想定をはるかに超える被害の実態が明らかになった瞬間です。
立ち入り調査は、行政が持つ権限の中でも比較的強い措置の一つです。この調査が行われたことで、長らく不透明だった被害の全容が解明され、その後の工事中止勧告といった具体的な行政処分へとつながっていくことになります。
事業者への工事中止勧告と復旧指示
現地立ち入り調査の翌日、2025年6月5日、北海道庁は事業者である札幌の建設会社に対し、森林法に基づく「工事の中止勧告」と、伐採跡地を元に戻すための「復旧工事計画書の提出指示」を行いました。
これは、違法な開発行為をこれ以上継続させないための緊急的な措置です。勧告に従わない場合は、さらに重い「工事停止命令」などの行政処分に移行する可能性も示唆されました。
同時に、失われた森林環境を回復させるための具体的な計画を求めたことは、重要な一歩です。単に工事を止めるだけでなく、原状回復に向けた責任を事業者に明確に求める姿勢を示したことになります。
提出された復旧計画書とその内容
行政からの指示を受け、事業者は2025年6月9日に復旧工事計画書を提出しました。しかし、その内容は完全なものとは言えませんでした。
計画書の具体的な内容
計画書では、伐採した3.9ヘクタールのうち、約2.7ヘクタールについては6月末までに植林による復旧工事を行うとされています。この部分については、実際に期限内に植樹作業が実施されたとの報道もあります。
残された課題
一方で、残りの約1.2ヘクタールについては「検討中」とされるにとどまり、具体的な復旧方針が示されませんでした。住宅が建設されているエリアなどが含まれるとみられ、完全な原状回復が難しい状況がうかがえます。
一部の復旧が進んだとはいえ、問題が全て解決したわけでは決してありません。未計画部分の扱いをどうするのか、そして植樹した苗木が将来的に健全な森林へと育つのか、長期的な監視が不可欠です。
鈴木知事が語る事件の悪質性
この一連の問題に対し、北海道の鈴木直道知事は記者会見で強い懸念と批判を表明しています。知事は「悪質性があると思うし、現実として手続きがなされていないことを遺憾に思う」と述べ、事業者の姿勢を厳しく非難しました。
また、「無秩序に開発が行われないよう、森林伐採や土地開発に関わるルールの徹底をしていく」とし、再発防止に向けた取り組みを強化する考えを示しています。
ただ、知事は同時に、行政対応の難しさについても言及しています。法律で定められた権限を超える指導、例えば直ちに工事を強制的に停止させることなどは、逆に事業者から訴訟を起こされるリスクもあり、現実的ではないと説明しました。法治国家として、あくまで法律の範囲内で厳格に対応していくという、行政が置かれた難しい立場もにじませています。
羊蹄山違法森林伐採問題の今後の焦点
- 発生場所は北海道倶知安町巽地区
- 被害面積は当初報告の4倍の約3.9ヘクタール
- 森林法や建築基準法など複数の法律に違反
- 建築主は中国系人物とみられるが連絡不能
- 札幌の建設会社が施工を担当
- 道からの図面要求は7回にわたり無視された
- 2025年6月に道が立ち入り調査と工事中止を勧告
- 事業者から2.7ヘクタールの復旧計画が提出・実施
- 残り1.2ヘクタールの復旧方針は未定のまま
- 鈴木知事は手続きの不備と悪質性を指摘
- 行政指導には法的な限界があることも課題
- 外国資本による土地開発のルールが問われている
- 景観や生態系への深刻な影響が懸念される
- 根本的な再発防止策の検討が急務
- 問題の完全な解決には至っていないのが現状